日本酒の製法特許権が侵害された!差し止め・損害倍請求はできるか?

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今回は、日本酒の製法特許権が侵害された事件です。
特許権者はその権利を守るために、特許権を侵害した者に対し、どのような対処法が考えられるでしょうか。
人権擁護の実力派として知られる花園弁護士が懇切に解説していきます。

弟子に裏切られ、日本酒の製法特許が侵害された!

わたしは、東京の郊外を流れる多摩川の上流にあたる水源地帯で日本酒の醸造を営んでいる酒造業者です。
徳川時代からの老舗で、地元の名酒「玉清水」を製造販売し、老舗にふさわしい業績をあげてきました。
現在は、わたしが社長の会社組織になっています。

健康寿命が提唱される現代に対応して、糖質の少ない日本酒醸造を研究し、その製造法について「特許権」を取得しました。

醸造技師は、わたしが天塩にかけて育てた愛弟子でした。
ところが、この技師は突然、郷里の新潟県魚沼市に帰郷してしまいました。

その後、越後新報というローカル新聞の記事で「玉清水」が販売されている事実が判明しました。
探偵社に依頼して調査した結果、帰郷した弟子が醸造会社を設立して販売している事実が確認されました。
これは、明らかにパテントの侵害です。弟子に裏切られて悔しい思いをしています。
特許権の侵害を排除する手法はありますか。

特許権侵害相談に対する花園弁護士のカウンセリングは!

ご事情はよくわかりました。
結論を先にいえば、まず弟子に対して差し止め請求ができます。
そして特許権の侵害から生じた損害の賠償を請求できます。
さらに不当利得返還請求および信用回復措置請求も可能になります。

その理由を順に解説しましょう。

侵害行為の差し止め請求はできるか!

まず加害者に対して侵害行為の差し止め請求はできるでしょうか。

特許権を取得した技術による清酒の醸造を停止するよう請求しましょう。
侵害行為停止の請求は、パテントに関する「特許法」により認められています。

すでに特許権が侵害されているのですから、裁判所に対して侵害行為の停止を内容とする仮処分を申し立てましょう。

そして加害者が、すでに醸造した清酒を廃棄させ、醸造設備も撤去させましょう。

損害賠償請求はできるか!

すると、特許権の侵害を理由に損害賠償を請求できるでしょうか。
特許権を侵害して、本物の清酒を模倣した模倣品を醸造・販売していますから、損害の賠償を請求できます。

しかし損害賠償を請求するには、侵害者の故意・過失という主観的な要件、結果として発生した損害額の算定などの立証が容易ではありません。

そこで特許法は、損害額について算定規定を設けていますし、侵害者の故意・過失についても、侵害者には侵害の故意・過失があったものとする、という推定規定を定めています。

ですから、損害額は、「侵害者が得た利益」がそのまま発生した損害と推定されます。
そのうえ、きわめて証明が困難といわれる「故意・過失」を証明する必要もありません。

それだけに、損害賠償の請求は容易になっています。

 不当利得返還請求はどうか?

それでは、特許権の侵害行為によって「加害者が得た利益」を不当利得として返還請求できるでしょうか。
法律上の原因がないのに他人の財産や労務によって利益を受け、そのために他人に損失をおよぼした「受益者」は、その利益のある限度において、その利益を返還しなければなりません(民法703条)。
これが「不当利得」の制度です。
この仕組は公平の観点から、他人が損失を受けたことによって生じた利得を正当な理由がなく受け取った者が存在するケースにおいて利得を返還させるわけです。

本件では、特許権者の「特許権実施許諾」もなく、勝手に製造技術を濫用して清酒を醸造・販売して利益をあげていますから、特許権者はその利得を不当利得として返還するよう請求できます。

信用回復措置を請求できるか!

さらに信用を回復する措置を請求できるでしょうか。

特許法の規定によれば、裁判所は、特許権者の請求により、特許権者の業務上の信用を侵害した者に対して、その信用を回復する措置を命じることができます。

本件においても、裁判所に対し、この請求をすることはできます。
ただ、「粗悪品によって特許権者の業務上の信頼が害された場合」と評価されるかどうかは、疑問が残ります。
加害者が製造した清酒が粗悪品といえるかは、裁判所の判断によるしかないからです。

侵害の警告はどうか!

最後に加害者に対する侵害の警告はどうでしょうか。

これまでみてきたように、特許権が侵害されたケースでは、損害賠償を請求できますが、その訴訟を提起する以前のレベルで、侵害者に対し「侵害の警告」をするのは、どのようなメリットがあるでしょうか。

これから提起する特許権侵害に関する訴訟において、その主導権を握り、原告に有利な判決を獲得するとか、有利な条件で和解するには、争点を正確に予測して、その争点を有利に導くために、周到な準備をする必要があります。
その一環として「侵害警告」を発しておくほうがよいでしょう。

特許権の侵害には適切な対策を!

これまでの解説によって、弟子に対して差し止め請求ができること、特許権の侵害から生じた損害の賠償を請求できること、さらに不当利得返還請求および信用回復措置請求もできる理由が明らかになりました。

そこで、これからどの対応策を選ぶべきか、話し合いを重ねて、適切な対策をたてるようにしましょう。
考慮期間として1週間を設定しますから、時間をかけてどのコースにするかをお考えになってください。

■花園法律事務所の接見室

花園法律事務所の接見室では、花園弁護士がソファーにもたれ、腕を組んでいます。
「これでカウンセリングは終わりですが、なにか、おわかりにならないことはありますか」
花園弁護士は、クライアントに視線を浴びせます。
「はい。よくわかりました。従業員とも相談して方針を決めます」
「それでは、1週間後の午後2時にお越しください」
「はい。わかりました。ありがとうございました」

クライアントは深く頭を垂れると、接見室から退出していきます。

著者紹介

フジタ
法律事務所勤務を経て、法律研究所を設立。司法試験の受験を指導、多数の合格者を輩出してきた。
法律とともに、心理学の専門家でもある。

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