川上理保さん(女性・20代前半)
あなたは、起立性調整障害と言う病気を知っているだろうか?
起立性調整障害は自律神経失調症の一種であり、小・中学性に発症しやすい傾向があるとされている病気だ。
午前中は体調が悪く、頭痛やめまいだけでなく、朝起きられない、だるい、体が重い等の症状がある。
しかし、夕方頃になると調子が良くなって普段の元気を取り戻し、いたって普通の生活できる為、「怠け病」と疑われてしまいがちだ。
この病気は自分でも体調のコントロールができないので、病院受診を躊躇ったり、周囲の目を気にしてしまう。
しかし、
病気を受け止め、しっかりと治療することが、普段の日常を取り戻すための近道だ。
起立性調整障害の発症
症状の現れ
小学4年生の2学期の終わり、7月頃、朝起きることが急に辛くなった。
夜更かしや眠気ではなく、熱がある訳でもない。
体を起こす気になれなず、ただひたすら体がだるく、重く感じるのだ。
その日は学校を休み一日中寝ていると、夕方には体調も良くなり、「なんだったんだろう?」と思うほど元気になった。
明日は学校に行くぞ!という気持ちで、翌日の学校の準備をして就寝した。
しかし、翌朝また同じ症状が出て学校を欠席した。
それが繰り返し1ヶ月程度続いたのである。
結局、終業式も欠席し、夏休みを迎えることになった。
病名がわからない
体調を崩してから、かかりつけの小児科に通うようになった。
最初の診断ははっきりとせず、栄養剤の点滴のみで投薬を終了した。
それから何度か血液検査をしても、視診や問診をしてもはっきりとした病名がわからず、2週間ほど経って「マイコプラズマ肺炎」と診断された。
しかし、肺炎の症状と一致するところも無かった為、私も両親も診断を受け入れることができなかった。
それから、少量の飲み薬と数日に一度点滴をしに行く程度の投薬で様子を見ていた。
さらに2週間ほど経って「起立性調整障害」と診断が下りた。
約17年前の当時は、そのような病名を全く聞いたことがなく、認められている症例も少なかった為に診断にも時間がかかったのだろう。
発症してから1ヶ月ほど経ち、やっと納得できる診断が出たのだ。
起立性調整障害を乗り越えるきっかけ
自分の病名を知り、症状を受け入れるようになってから、この先どうすれば良いのだろうと小学生ながらに不安になった。
3学期も学校に行けないのだろうか。
今している点滴や飲んでいる薬は効いているのだろうか。
いつまでこの生活が続くのだろうか。
そんなことを考えていた日々だった。
当時、小学校の部活でミニバスケットボール部に所属していた私は、気は弱いものの決して折れない性格だった。
夏休みに入り、友達は部活中心の生活になっているのに、このままじゃダメだ!と思った時、病気に負けない強い気持ちが芽生えた。
どんなに朝が辛くても、夕方になれば調子が良くなることを身をもって知っているのは、他でもない自分自身だ。
絶対に次の日の朝は何がっても体を起こすんだ!という気持ちで眠りについた。
翌朝、やはり症状は変わらず体を起こすことは辛かったが、今回は気持ちの方が強かった。
ふらふらの体を無理矢理に起こし、「部活行く!」と両親に告げて準備をし、自転車を走らせた。
久しぶりの部活はさすがに体力が持たず、全メニューついて行くことは難しかったので部分的な参加になったが、久しぶりに午前中体を起こして動いたので、気分はとても晴れやかだった。
それから、朝起きるのが辛くても部活に行くことを続け、努力の結果なのかいつのまにか自然に起きられるようになり、3学期には元気に登校することができたのだ。
現在も症状が続いている?
それから中学校時代まではどの季節も元気に過ごすことができていた。
高校生になり、夏から秋に変わる季節になると、夜更かしをしている訳ではないのに、朝起き辛くなってきた。
頭痛やめまいの症状はないものの、ひどい眠気とだるさが続いた。
寝ぼけ眼でリビングに行くが、朝食を食べながら寝てしまったり、歯磨きをしながら寝てしまったりした。
通学電車の中では立っていても寝てしまい、到着駅から徒歩15分の学校までも歩きながら寝てしまう。
一日中眠くて授業はほとんど居眠り状態で、夕方の授業になって初めてはっきりと目が覚めた。
しかし、冬、春、夏は生活に支障もなく、元気だったのだ。
大学生になると、一人暮らしで自由の幅が広がったこともあり、毎年10月頃になると起きられなくなり、欠席する日が続いた。
毎年、後期の単位はギリギリ取っているような状況だった。
大学生のゆるい生活に、怠けているだけだと思っていた為、社会人になればシャキッとするだろうと楽観的に考えていた。
しかし、社会人になった今でもやはり、10月頃になると起きられず、何日か欠勤してしまうことがある。
未だに薬や治療ではなく気持ちで乗り切っている日々が続いている。
今、起立性調整障害で悩んでいる方へ
起立性調整障害は、一見、怠け病のようで理解されにくい病気だ。
自分でも、怠けているだけなのかな?と思ってしまう程だ。
しかし、これは病気。
しっかりと自分の症状を医師に伝え、自分の体に合った薬や治療法で直すこと、病状や回復ペースにゆっくりと向き合い、しっかりと治すことが大切だ。
私は薬でしっかり治療することを自ら止め、気力で乗り切ってしまった。
そして元気になった気で生きてきてしまった。
きちんと治療しなかったから今も苦しいのだろうか?と、毎年秋が来るたびに悩み、今更両親にも友達にも言えないことに孤独を感じることもある。
しかし、昔起立性調整障害にかかったことがあったけれど治癒状態まで治療をしていなくて、秋だけ調子が優れない、起きられない…なんて、なんだか都合の良いように聞こえる気がして、病院に行くこともできない。
だから、今悩んでいるあなたには、しっかりと病院に行って診断してもらい、治療することをお勧めする。
きっと、起立性調整障害かかった方の中で、この病気との向き合い方の難しさに気持ちが落ち込んでしまう方は、精神病などの二次障害も出てしまうだろう。
そうなる前に、これが病気の症状だということを受け止めて治療をすべきだ。
周囲の人の理解も必要な病気なので、理解してもらえない辛さや、怠けていると思われているのだろうかと周囲の目を気にしてしまうような、症状以外の辛さもあるだろう。
しかし、逆に言ってしまえば、経験した人にしか分からない病状なので、あなたが今辛い経験をしていることが、いつか他の苦しんでいる誰かを救うことができるはずだ。
実際に、私は大学生の時に家庭教師のアルバイトで担当した子が起立性調整障害だった。
まさか、同じ病気を経験してきた人が家庭教師に来てくれるなんて、と生徒の母親は喜んでくれた。
そして今、大学時代の同期が起立性調整障害を発症し、治療している。
その友人が病気を打ち明けてくれて初めて、私も自分の経験した病気や現在の症状を話すことができた。
起立性調整障害にかかった人に出会うと、何故か感謝される。
周囲の人に理解されづらい病気を、わかってくれてありがとう、と。
共感してくれる人がいることが心強い、と。
治ったら私のように元気に生きられる気がする、と。
珍しい病気にかかることは、その時はとても辛くて先が見えないが、いつか、誰かの為になるはずだ。